2011年10月12日水曜日

♯266 想い出あずかります(文学)

吉野万理子著 2011


あらすじ


「嬉しいのに涙が出て、傷ついても信じてみたい。
自分にそんな感情があることを、初めて知って驚いた。
こんなに大事な想い出を、人は忘れてしまうもの? 
ううん、忘れ去るなんて、きっとしない。
見えなくて触れないからこそ大事だって、分かってる。
人間って侮れないんだよ――。きらきらと胸を打つ、大人のための長編小説。」




想い出質屋という店がある。
20歳まで利用できるお店だ。
子供たちはそこに様々な想い出をあずけに訪れる。
母との想い出や友との想い出。
何気ないものから、その子供としての、その瞬間にとって、
とてもとても大事な、それが何か運命の分け目となるんじゃないか、
という想い出。


想い出をあずけることで、それは、お金になるかわりにその想い出は消える。
想い出をあずける、という行為を読者として客観視することで、
恋やイジメ、家族という様々なものとの向き合い方を見ることができる。


質屋を営むのは魔法使いである。
魔法使いではあるが、決してメルヘンすぎることのないのが本作の良い点の一つであろう。
ことのほか、淡々と話は進み、かつ、面白い。


ひたすら人間の想い出や悩みを聞いてきた魔女。
人間と違い、寿命がない。
魔女には人間のような様々な感覚はあるのだろうか。


想い出、というものを軸に、
人々の感情の交差、人と魔女との感情の交差、
そして想い出というふんわりとしたものを、
温かさの中に、哀しみと凛としたものを感じさせる本作は非常にオススメであります。


振り返ってもいい。でも戻るな。
一歩一歩大事に、歩を進めるのが、大事なのだ。


「本当はもっとシンプルでしょう」
「え」
「本物の相手の見つけ方」
「シンプルって?」
「想い出にならない人。それが運命の人よ」
「想い出に、ならない?」
「好きだった、にならない人。あの頃はよかったな、と思わない相手。
何年たっても好き。現在進行形のまま。それが本当に大切な人」

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